新型コロナウイルスに対する治療薬(候補薬)まとめ

新型コロナウイルスの感染者数はまた増加しており、効果的なワクチンや治療薬の開発が進まない限り、これまでの日常が戻る日は遠いのかもしれません。今回は新型コロナウイルスに対する治療薬(候補薬)を今一度まとめてみました。
※適宜更新します
ロピナビル・リトナビル配合剤(プロテアーゼ阻害薬)
2錠(1錠中ロピナビル200mg・リトナビル50 mg) 1日2回、10~14日間で投与。MERSに対して動物実験モデルにおいて有効性が認められました。SARS-CoV-2に対する培養細胞レベルのデータはありません。COVID-19に対しては初期には症例報告や小規模の後方視的研究で有効性が報告されましたが、その後の199例を対象とした非盲検化ランダム化比較試験では、発症12日以内にロピナビル・リトナビルを開始した群と標準治療群で臨床的な改善に対する有意な差は認められませんでした。薬剤相互作用があるので、併用薬の確認が重要です。副作用として消化器症状が多く肝障害に注意が必要です。
J Infect Dis. 2015 Dec 15;212(12):1904-13.
N Engl J Med. 2020 May 7;382(19):1787-1799.
ファビピラビル(RNA合成酵素阻害薬)
新型インフルエンザやエボラ出血熱に対しての臨床効果が報告されており、SARS-CoV-2に対しても中国政府は臨床試験で良好な結果を得たと発表しています。多施設ランダム化比較試験で中等度患者に対してファビピラビル群はアルビドール群と比較して7日目の臨床的改善が有意に得られました(71.4%vs 55.9%, p=0.020)。現在、国内でも臨床試験が進められています。催奇形性がある点が要注意であり、妊娠する可能性がある場合は男女ともに避妊を行う必要があります。また、高尿酸血症や肝障害の頻度が高いとされています。
medRxiv. Preprint posted March 27, 2020.
シクレソニド(吸入ステロイド薬)
SARS-CoV-2 に対してin vitroで抗ウイルス活性を示すことが示されました。200μgインヘラー1日2回、1回2吸入14日間。国内での使用例として症例報告があります。臨床試験中。
bioRxiv. Posted March 12, 2020
日本感染症学会:COVID-19 肺炎初期~中期にシクレソニド吸入を使用し改善した3例. 2020/3/2.
レムデシビル(核酸アナログ薬)
抗エボラウイルス薬として開発されていた薬剤で、培養細胞レベルでの抗SARS-CoV-2への活性が認められました。米国立衛生研究所(NIH)が発表した臨床試験に日本の施設も参加しています。酸素飽和度が94%以下の気管挿管された患者(57%)やECMO使用患者(8%)を含む軽症〜重症の計53例のCOVID-19患者(うち日本の9症例も含む)に投与した研究で、計36例(68%)の臨床的効果があると報告されました。副作用としては、肝障害(23%)が認められました。その後の研究で、臨床的改善はプラセボよりもレムデシビルのほうが31%早かったと報告されています。(p<0.001)。死亡率は有意な差はありませんが、レムデシビル群で8%、プラセボ群が11.6%でした(p=0.059)。
Cell Res. 2020 Mar;30(3):269-271.
N Engl J Med. 2020 Apr 10;.
ヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬)
トランプ大統領が内服していると話題になった薬剤。培養細胞レベルで抗SARS-CoV-2の活性が示されています。フランスの36例の臨床試験では6日目の鼻咽頭スワブ検査におけるウイルスの消失がヒドロキシクロロキン群で70%(14/20)、コントロール群で12.5%(2/16)と有意に低い結果でした。しかし、症例数36例と少ないこと、アジスロマイシン併用が一部あることには注意が必要です。また中国でのランダム化比較試験では、7日目のウイルス消失率はヒドロキシクロロキン群と標準治療群で86.7%と93.3%と有意差はなかったと報告しています。有害事象が多い点に注意が必要であり、網膜症・黄斑変性の患者には禁忌です。またQTc延長、骨髄抑制、低血糖などの報告があります。特に、アジスロマイシンやフルオロキノロンとの併用によるQTc延長で致死的不整脈をきたす報告もあり注意が必要です。
Cell Res. 2020 Mar;30(3):269-271.
Int J Antimicrob Agents. 2020 Mar 20;:105949.
J Zhejiang Univ (Med Sci) 2020, Vol. 49, Issue (1)
JAMA. 2020 Mar 24.
全身ステロイド投与
SARSやMERSの研究ではウイルス排泄の遅延や細菌感染などの合併症があることから、使用の是非については議論がありますが、COVID-19患者でARDSを伴う肺炎患者201名の後方視的コホート研究ではステロイド使用群で有意に死亡率が低かったという報告もあります。IDSA (Infectious Diseases Society of America:米国感染症学会)のガイドラインでは、全例での全身ステロイド投与は否定的ですが、ARDSの患者に対しては弱い推奨としているようです。
J Clin Virol. 2004 Dec;31(4):304-9.
Am J Respir Crit Care Med. 2018 Mar 15;197(6):757-767.
トシリズマブ
サイトカインをターゲットとした、関節リウマチなどで使用されているトシリズマブ(ヒト化抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体)も有用性があり、中国での観察研究でも効果が認められています。現在phase3のstudyが現在行われているようです。
Thromb Res. 2020 Apr 10;
ナファモスタット
急性膵炎やDICの治療で使用される薬剤で、SARS-CoV-2の感染の最初の段階であるウイルス外膜と、感染する細胞の細胞膜との融合を阻止することで、ウイルスの侵入過程を効率的に阻止できる可能性があることが、細胞レベルの研究で報告されました。臨床での効果が検討されています。
-
前の記事
新型コロナウイルスに対する、市販の消毒液や洗剤の不活化効果について 2020.04.17
-
次の記事
記事がありません