新型コロナウイルスに対する回復期血漿療法 【論文紹介】

新型コロナウイルスに対する回復期血漿療法 【論文紹介】

新型コロナウイルスの重症例で切り札となるのは本当に「人工呼吸器」と「エクモ」なのか。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、政府は「人工呼吸器」や「エクモ」の供給不足に備えて増産を産業界に要請しています。確かに海外では重症患者に使用する人工呼吸器等の医療機器が不足しており大変なことになっている施設も少なくないようです。しかし、「人工呼吸器」や「エクモ」は重症患者の命を救うためには確かに必要な医療機器ではありますが、切り札となる「治療」ではありません。「人工呼吸器」や「エクモ」によって呼吸の状態や生命を維持することはできますが、新型コロナウイルスを倒すことはできないのです。「人工呼吸器」や「エクモ」はあくまでサポート機能です。しかも「エクモ」に限っては増産できたとしても扱える専門的な医師・技師・看護師が多くいません。
参考:新型コロナ肺炎、体外式膜型人工肺(ECMO)って何? 最終手段?

では新型コロナウイルスを倒すことができるものはなにか。

1つは特効薬です。残念ながら、様々な臨床試験が進行中ではありますが、現在のところ新型コロナウイルスに対する特効薬は同定されていません。可能性のある薬剤は試されていますが、患者の多くは症状を和らげたり全身のバランスを維持したりためのサポートとしての治療を受けています。

2つ目は人が持ち備えている免疫力です。新型コロナウイルス感染者の中には、感染後に無事回復することができた人が多数います。彼らは新型コロナウイルスを自らの免疫の力で倒し、克服したのです。

1つ目については世界中で研究が進められ、臨床試験も始まっています。では2つ目はどうか。これについては、「回復期血漿療法」と呼ばれる手法が現在注目されています。

回復した患者の血液中には、闘病の過程で新型コロナウイルスを倒すために患者自身が産生した、新型コロナウイルスに対する抗体で満たされています。これを採取して、他の重症患者に投与しようというアイディアです。そうすると、回復した患者の血液中に含まれていた新型コロナウイルスに対する抗体が、重症患者の体内で作用し、新型コロナウイルスとの戦いに非常に有利になると予想されます。

実際、投与を行った患者で効果があったという報告が少しずつ増えてきました。今回は、中国・広東省からの報告で、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を呈した新型コロナウイルス感染症重症患者に対する「回復期血漿療法」の有用性について検討した研究を紹介します。

対象となった患者は人工呼吸器管理を要する重症肺炎の患者5例(36-65歳)で、入院10-22日後に、回復患者5例から採取した回復期血漿を輸血しました。

すると、血漿輸血後、5例中4例が3日以内に正常体温になり、全身の重症度を示す多臓器不全スコアも低下。酸素状態も改善しました。ウイルス量も減少、輸血後12日以内に陰性となり、輸血後2週間以内に3例が人工呼吸管理から離脱しました。その後、5例中3例が退院し(入院期間:51-55日)、残る2例も輸血後37日時点で安定しているとのことです。

この手法は画期的なように見えますが、「回復期血漿療法」のアイディアとしては非常に昔からあるものです。感染症に対する薬が開発できなかった頃はこのような手法が取られていたわけです。日本の医学者、北里柴三郎は1889年に破傷風菌の純粋培養に成功し、その後血清療法を確立したことで世界的な研究者となりました。

重要なのは、回復者から血液を回収するタイミング。適切な時期に採取しなければ効果的な抗体が回収できないということがわかっており、どのタイミングで採取するのがもっとも効率が良いのか検討していく必要があります。そのための施設、システムの準備が必要です。

現在、メディアやSNSでは「人工呼吸器」や「エクモ」の言葉が飛び交い、増産に向けた大きな動きがあるようですが、もちろんそのような動きが必要である一方で、その他にも同じくらい注目すべき治療法もあると思います。もちろんまだ未発見の副作用のリスクも懸念されますが、あらゆる治療の効果がなくどうしようもなくなってしまった重症患者がいる状況であるならば、効果があるかもしれない手法は試していくべきであり、そのようなシステム構築のための準備も「人工呼吸器」や「エクモ」の増産と同じくらい必要でしょう。

参考:Effectiveness of convalescent plasma therapy in severe COVID-19 patients