新型コロナ肺炎、体外式膜型人工肺(ECMO)って何? 最終手段?

新型コロナ肺炎、体外式膜型人工肺(ECMO)って何? 最終手段?

今回の新型コロナウイルス流行をきっかけに、ECMOという言葉を耳にする機会が多くなりました。新型コロナウイルス陽性と診断されたタレントの志村けんさんも、ECMOが導入され最善が尽くされました。ECMO(エクモ)とはextracorporeal membrane oxygenationの略、『体外式膜型人工肺』の意味です。今回の新型コロナウイルス肺炎では重症化した患者さんに対しては導入されることもあり、「ECMOって人工呼吸器と違うの?」「ECMOさえあれば救われる?」などというコメントも多かったので、今回はECMOとはどのような治療のことを指すのか紹介したいと思います。

「ECMOって人工呼吸器と違うの?」
→人工呼吸器のみでは改善が見込めない場合等に導入されます。

「ECMOさえあれば救われる?」
→そうとは限りません。ECMOは原疾患の治療ではなく対症療法です。

「重症になったらとりあえずECMO使うんでしょ?」
→ECMOを適切に使用するためには、医師・看護師・技師など複数の人材が必要です。またどの病院もあるものではありません。ECMOを使用することは大変なことです。

 一般的に、呼吸状態は「酸素化」と「換気」に分けて評価します。
「酸素化」とは酸素が血液に取り込まれることです。一方で「換気」とは、血液が不要な二酸化炭素を肺胞へ放出してそれを呼吸によって体の外に排出することです。この「酸素化」と「換気」の両方がしっかりと機能していることが大切で、どちらか一方の機能が低下することで呼吸状態は悪化し、危険な状態になってしまいます。

呼吸状態が悪くなるとまずは酸素マスクによる酸素投与から始まります。それでも酸素化が維持でいなくなると、より高用量の酸素を送り込んだり呼吸を助けたりできる専用のマスクへと切り替えていきます。マスクではどうしても維持できなくなると気管に管を入れて(=挿管)人工呼吸器を導入します。
 しかし、重症な呼吸不全となったとき、人工呼吸器を始めとした様々な呼吸管理方法を駆使しても、いよいよ酸素化が保てないとなった場合に、治療の最終手段として血液を体外に導出して人工肺を通して、もう一度体内に戻し、ガス交換を行う方法が用いられる場合があります。これがECMOであり、つまり、人工肺とポンプを用いた体外循環回路による治療のことです。

 成人重症呼吸不全に対するECMOによる救命の最初の報告は1972年までさかのぼります。人工呼吸器では管理が困難となった外傷性ARDSに対して75時間のECMOによるサポートによって救命されました。その報告以降、様々な状況においてECMOの導入が期待されるようになりました。

 原則としてECMOは「呼吸不全の原因疾患が回復するまでの時間稼ぎ」です。
つまり、ECMOの適応を検討する際には、原疾患が回復可能であるということが大前提になります。その上で、標準的な治療である人工呼吸による治療を継続していては死亡する可能性が高い場合、ECMOの禁忌に該当しない場合にECMOの適応となります。

標準治療である人工呼吸中にECMOを考慮する状況は

①酸素を取り込めず重篤な状態
②二酸化炭素を排出できず重篤な状態
③人工呼吸器関連肺障害を発症するような肺胞破壊的な人工呼吸を要する場合

です。①、②は酸素化・換気についての基準なのでわかりやすいです。③は何でしょうか。人工呼吸器を使用しているとき、肺には実は非常に大きなストレスがかかっています。換気能力が落ちているのに、そこへ鞭打って換気を強いているような状況が人工呼吸器です。ECMOに切り替えると、そのような肺の機能を一旦OFFにすることができます。人工肺による酸素化によって肺を一旦休憩させることができるのです。このような点で、③のように、肺への負担が不可逆的になる前にECMOへ切り替えるというのは非常に有用です。ただ、①、②の状況でECMOを考慮することはできても、③のように、とりあえずは人工呼吸器で保たれているが、いつECMO導入へ切り替えたほうがより良いか、についてはまだ明確な基準がなく、さまざまな研究が行われています。

 ECMOでは、体外循環のため、血液を体内から体外へ出すための脱血ルートと、体外から体内へ血液を戻す送血ルートが必要になります。一般的に脱血は足の付根にある大腿静脈から管を心臓の右房流入部まで挿入します。送血は2通りあり、動脈に送血する場合(V-A)と静脈に送血する場合(V-V)があります。

通常、動脈に送血する場合は脱血の管と同じ側にある大腿動脈を確保することが多く、心臓・肺の両方をアシストする目的で行います。 一方、静脈に送血する場合は首にある内頸静脈を確保して、肺のアシストのみを目的とします。重症呼吸不全ではV-Vが第一選択になることが多いです。いずれにせよ、太い管を大血管に通して体外へ血液を出す、侵襲度の高い治療法です。

また、ECMOを適切に使用するためには、非常に多くの医療従事者が関わる必要があります。医師だけでICUの担当チーム、救急救命医、呼吸器内科医や循環器内科医など4-5人、看護師は4-5人、臨床工学技士が2-3人必要となり、合計で10人以上の経験のある医療従事者が必要となります。ECMOを導入するということは大変なことであり、どの病院でもすぐに導入できるようなものではありません。

さて、繰り返しになりますが、ECMOの大きな利点の1つは、人工呼吸器などで高い陽圧をかけ続けた肺を一時的に休ませることができるという点です。あくまでECMOは原疾患の治療ではなく対症療法、「呼吸不全の原因疾患が回復するまでの時間稼ぎ」になります。そのため、今回の新型コロナウイルス肺炎に対するECMO導入の効果としては、「重症化した新型コロナウイルス肺炎がどの程度可逆的で回復可能なのか」という点が大きなポイントになると思います。ECMOを速やかに導入できる施設は限られており、研究も偏りが生じたり、施設間のばらつきが結果に影響を与える可能性もあるので、研究結果は慎重に検討する必要がありますが、症例報告レベルでも非常に有用なこともあるので、新しい研究成果に期待しましょう。