新型コロナウイルスにも効果がある抗マラリア薬、クロロキンとはなにか?
- 2020.02.25
- 医療・医学ニュース

国内でも流行が広がる新型コロナウイルス。様々な治療薬のスクリーニングが行われていますが、中国科学技術部は、新型コロナウイルス肺炎に対するリン酸クロロキンの有効性を確認したと報告しました。
今回はこの「クロロキン」がどのような薬なのか解説します。
クロロキンは抗マラリア薬
クロロキンはマラリアに対して使用されている薬剤です。抗マラリア薬として歴史的に有名なのは、キナの樹皮から単離されたキニーネです。19世紀終盤にキニーネの構造が決定され依頼、パマキンやメパクリンといったキノリン骨格を有する化合物が開発されました。クロロキンもその一つです。

ヒドロキシクロロキンの開発
クロロキンは、日本で過去に抗マラリア薬として販売されていましたが、高用量での使用により網膜症が発現することが国内外から報告されたことで販売中止となった経緯があります。そんな中、クロロキンと類似した作用機序と化学構造を有するヒドロキシクロロキンが開発され、海外でクロロキンに比べて組織親和性が低く、低用量の使用では網膜障害の発現リスクも相対的に低いことが報告されました。抗マラリア作用にとどまらず、抗炎症作用、免疫調節作用なども認められ、海外において、皮膚エリテマトーデス(CLE)、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ、皮膚筋炎などに標準的に使用されるようになりました。これを受けて、日本ヒドロキシクロロキン研究会が立ち上がり、ヒドロキシクロロキンの国内への導入が実現しました。ヒドロキシクロロキンはクロロキンの側鎖末端にヒドロキシル基が付加された構造をしています。

ウイルスにも効果がある可能性
さらに、感染症に関して、ヒドロキシクロロキンはマラリアだけでなく、細菌、抗酸菌、真菌、ウイルスなどの感染にも効果があることがわかってきました。具体的には、Tropheryma whippelii 、黄色ブドウ球菌、レジオネラニューモフィラ菌、マイコバクテリウム属細菌種、チフス菌、大腸菌、ライム病菌などの細菌、真菌、HIV、重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス、その他のコロナウイルスなどのウイルスへの効果が報告されています。作用機序は未だ解明されていませんが、ウイルス侵入やタンパク質糖化に関連するいくつかの段階が遮断されることによりウイルスの増殖が防止されるという仮説が挙げられています。

実験的な報告ではありますが、従来のコロナウイルスへの効果も認めているということなので、今回の新型コロナウイルスへの効果も納得ができるかもしれません。
近年は抗腫瘍効果についても検討されており、癌治療における可能性も期待されています。
注意すべき副作用
ヒドロキシクロロキンであれば、薬害で問題となったクロロキンと比較して、組織親和性が低く、眼毒性もそれほど高くないとされています。10年以上の投与によりクロロキンで2.5%(16/647例)に網膜毒性が認められたのに対し、ヒドロキシクロロキンでは0.1%(2/2043例)と報告されています。
とはいえ、網膜症状は深刻なので、治療開始前に詳細な眼科検査を実施し、服薬に問題がないか確認することが必要です。また、長期服用時は少なくとも年に1回、同様の眼科検査をおこない、網膜症状の早期発見に努める必要があります。
以上です。副作用には一定の注意が必要ですが、コロナウイルスに対する効果は期待できそうです。クロロキンの様々な作用機序は不明な部分が多く、幅広い作用があり非常に不思議な薬剤です。今回の新型コロナウイルスに対しても良い効果をもたらしてくれると期待しています。
参考:
Nature Reviews Rheumatology volume 6, pages10–11(2010)
Int. J. Antimicrob. Agents 30, 297–308 (2007)
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