白い巨塔:財前が罹患した「膵癌」、「トルソー症候群」とは
- 2019.05.27
- 医療・医学ニュース

5月22日から5夜連続で放送中の岡田准一主演のドラマ「白い巨塔」
繰り返しリメイクされているドラマだけあって、注目を集めていますね。
前回は血管内リンパ腫についてDr.physicianの方で解説してもらいました。
第五夜(最終回)では、財前五郎(岡田准一)が裁判に負けたと同時に、膵癌が発見され、その経過中にトルソー症候群という病気で一時急変しています。
①膵癌
膵癌はガイドラインが2016年のものが最新となっています。2019年に改定されるといわれています。
・疾患概念
リスクファクター:家族歴、遺伝性疾患、喫煙、大量飲酒、塩素化炭化水素暴露に関わる職業
合併疾患:糖尿病、慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、膵のう胞、肥満

・診断
腹痛、食欲低下、黄疸、体重減少、突然の糖尿病、背部痛などの症状のほか、腫瘍マーカーとして、CA19-9、SPAN-1、DUPAN-2、CEAなどが有用ですが、一番検出感度の高いCA19-9であっても、2cm以下の膵癌では陽性率52%と言われており、検出能は低いです。
疑われた場合は超音波検査を始め、造影CTなどにて診断し、最終的には内視鏡的超音波を用いて、EUS-FNAにて病理学的診断を経て確定診断となります。
PET-CTにて良性悪性の判断や、遠隔転移について確認した上で手術可能か判断しますが、PET-CTは小さいものや微小な遠隔転移には診断能力は限られます。2cm以下のものでは、68.8-100%と幅があります。

・ステージ
造影CTやMRIから、ステージ分類をします。腹膜播種などについては審査腹腔鏡を用いることもあります。
リンパ節転移 | 遠隔転移 | ||
なし | あり | あり | |
大きさ≦2cmで膵臓内に限局 | IA | IIB | IV |
大きさ>2cmで膵臓内に限局 | IB | ||
膵臓外に進展しているが、動脈などへ及ばない | IIA | ||
周囲の血管へ及ぶ | III |
劇中で、財前のステージはIVa、肝臓に転移があれば、IVb という里見先生の発言がありましたが、これは以前のガイドラインの判断となるので、現在のガイドラインでは異なりますが、そこはご愛嬌です。
・治療
膵癌は劇中でも述べられていましたが、”サイレントキラー”と言われており、症状が出たときにはかなりの進行であることが多いです。ですので、発見され、早期に手術に踏み込んでも、財前教授のように腹膜播種となっており、根治的切除が出来ないこともしばしば経験されます。
手術に関しては、局所の隣接臓器への浸潤や遠隔転移の有無などにより、切除可能・切除可能境界・切除不能に分類されます。
特に切除可能境界(Borderline resectable)が難しい判断となります。
一般的には、「標準的手術のみでは組織学的に癌遺残のある可能性が高いもの」と言われています。
門脈系への浸潤のみをBR-PV(Borderline resectable-Portal Vein)、動脈系への浸潤のものをBR-A(Borderline resectable-Artery)です。
評価には造影CTが望ましく、特に血管との関係についてはMRIが望ましいので、CTとMRI両者で判断していくことになります。遠隔臓器への遠隔転移については、PET-CTが有用となりますが、微小な転移などは審査腹腔鏡を行うこともあります。
1)外科的治療(Resectable)
膵臓癌は発症部位によって、膵頭十二指腸切除術、膵尾部切除、膵全摘術に分けられます。膵癌の手術はかなり専門性が高いため、ガイドラインでも、手術件数の多い施設で外科的治療をうけることが推奨されるほどです。
一般的には術前化学療法は行わないとされています。また、術後の補助化学療法は行うことが推奨されます。
第一選択はTS-1単独療法とされていますが、忍容性が低い場合はゲムシタビン単独療法が推奨されています、
2)Borderline resectable
術前化学療法により、一度小さくしてから完全切除を目指すという選択肢もあります。
今回の白い巨塔では、腹腔鏡での手術が上がっていましたが、膵頭十二指腸切除術においては、現時点では腹腔鏡施術は保険診療が認められていません。膵体尾部切除術は施設基準を満たす施設でのみ保険適応となっております。
3)切除不能膵癌
化学放射線療法もしくは化学療法単独による治療が推奨されます。
化学放射線療法に関してはゲムシタビン療法、TS-1単独療法、FOLFIRINOX療法、ゲムシタビンおよびナブパクリタキセル併用療法が推奨されます。
この場合は化学療法は重篤な副作用がでなければ、進行するまで続けます。
また、サイトカインや免疫チェックポイント阻害薬、キメラ高原受容体などの遺伝子改変T細胞、ナチュラルキラー細胞などに対する阻害薬などの「免疫療法」は推奨されません。
参照:膵癌診療ガイドライン2016
②トルソー症候群
財前教授が入院中に侵された「トルソー症候群」はあまり馴染みのない病気かもしれませんが、腫瘍を扱う医師は、常に知っていなければならない病気です。
トルソー症候群は「悪性腫瘍に合併する凝固能亢進状態とそれに伴う血栓性静脈炎」と定義されています。脳梗塞の発症を機に初めて悪性腫瘍が発見されることも少なくはありません。原因となる悪性腫瘍は、白血病を除くと、肺癌、膵癌、胃癌、卵巣癌などの腺癌に圧倒的に多いです。脳梗塞といっても、急性発症で意識不明 というような典型的なものではなく、小さい血栓がそこら中に点在する、多発性塞栓症を呈する事が多く、財前のように、手が動きにくい などの症状が起こります。治療は出血がコントロールされていればヘパリン静注などによる抗凝固療法がありますが、腫瘍が原因であるため、根治などは難しいので、発症した場合はそれ以上の増悪を防ぐというのが一般的です。
トルソー症候群に関しては防ぎようがないといいますか、合併症として常に考えないといけないものですが、患者さん家族からしたら突然脳梗塞になったり、肺血栓塞栓症になったりと急性な転機をたどることもあるので、医師からの十分な説明が重要となります。
今回の財前教授の訴訟でも分かる通り、患者さんや家族との良好な信頼関係を気づくことが医療現場では必須です(ラポール形成といいます)。今後起こりうる様々な可能性のあることを説明しながら現状を説明していくことは医師として重要です。
今回の白い巨塔リメイクは、血管内リンパ腫合併やトルソー症候群など、聞き慣れないことも多いですが、患者さんたちはそんなことは存じないことが当然なので、信頼関係や説明の機会を設けることの重要性を医師としても再確認させられました。
-
前の記事
白い巨塔:財前が見落とした『血管内リンパ腫』とはどういう病気か? 2019.05.25
-
次の記事
ラジエーションハウス第8話:虫垂腫瘍、腹膜偽粘液腫とは 2019.05.28