目撃者による心肺蘇生は心臓マッサージのみでよいか?

目撃者による心肺蘇生は心臓マッサージのみでよいか?

みなさんは、外出中などに心肺蘇生の現場に偶然居合わせたことはありますか?

私は都内で内科医をやっておりますが、私用で一人で外出している際に心肺蘇生の現場に遭遇したことがあります。ある施設の入り口で心停止となった方がいらっしゃったのです。直ちに人を集めて、心肺蘇生を行いました。その時は偶然ですが、たまたま居合わせた方で看護師や医療関係者の方が他にもいらっしゃり、皆で協力して病院へ救急搬送することができました。

いつ、どこで、誰が心停止するか分かりません。もしかしたら、大切な友人、恋人、家族が目の前で倒れるかもしれません。その時みなさんは「バイスタンダー」となります。

「バイスタンダー」とは、救急の現場に居合わせた人のことを指します。

そして、心停止などの救急の現場に居合わせた時、「一次救命処置」を行うことがバイスタンダーの役割です。

今回紹介する研究にも出てきますが、バイスタンダーによる心肺蘇生があった場合となかった場合とで、生存率は驚くほど変わります。目の前で起こった急変に対して救命を行うことは、非常に勇気のいることですが、勇気を出して救命を行うことで、救命率は当然のこと、その方が社会復帰するまでにかかる時間にも大きな差が出てきます。

救急車を受ける病院側でも、第一報でバイスタンダーによる心肺蘇生があったかどうかで、身構え方が変わってくることもあります。

さて、この一次救命処置ですが、AEDが到着するまでの間に心臓マッサージや人工呼吸を行います。

 →心肺蘇生法についてはこちら(日本医師会 救急蘇生法「覚えてください。まずは、あなたの大切な人のために」)

この心臓マッサージと人工呼吸の二つの手技のうち、人工呼吸については、近年、人工呼吸を行うよりも胸骨圧迫を優先して続けた方がよい、話があります。日本医師会のページにも、感染防護具を持っていない場合や、持ってはいるが準備に時間がかかりそうな場合、口と口が直接接触することに躊躇がある場合などは人工呼吸を省略してよいと、記載されています。

さて、今回はこの「心肺蘇生で人工呼吸を省略してよいか」という問題について、最新の研究結果が発表されていたので紹介します。スウェーデンでの研究です。

研究が行われたスウェーデンでは2010年以降、心肺蘇生を行う際に胸骨圧迫単独による蘇生を実施することを選択肢の1つとして推奨してきました。

バイスタンダーが目撃した院外での心停止例3万445例のデータが解析対象となっています。

対象者を

①心肺蘇生を受けなかった群
②標準的な心肺蘇生を受けた群
③胸骨圧迫のみによる心肺蘇生を受けた群

の3つのグループに分け、

1期:2000-2005年
2期:2006-2010年
3期:2011-2017年

の3つの区間に分けて比較を行いました。


解析の結果、救急医療サービスの到着前に心肺蘇生を受けた患者の割合は、

1期:40.8%
2期:58.8%
3期:68.2%

であり、徐々に上昇傾向にあることがわかりました。

また実施内容については
標準的な心肺蘇生では

1期:35.4%
2期:44.8%
3期:38.1%

胸骨圧迫単独の心肺蘇生では

1期:5.4%
2期:14.0%
3期:30.1%

であり、胸骨単独の心肺蘇生を選択肢の1つとして推奨して以降、胸骨単独の心肺蘇生率が急上昇していることがわかりました。


さて、気になる生存率ですが、各機関における院外心停止例の30日生存率を解析すると、

心肺蘇生を行わなかったグループ

1期:3.9%
2期:6.0%
3期:7.1%


標準的な心肺蘇生を行ったグループ

1期:9.4%
2期:12.5%
3期:16.2%


胸骨圧迫単独の心肺蘇生を行ったグループ

1期:8.0%
2期:11.5%
3期:14.3%


という結果でした。

まとめると、

・胸骨圧迫のみによる心肺蘇生の実施率はここ10年で6倍に増加した
標準的か胸骨圧迫単独かにかかわらず、心肺蘇生実施例では非実施例と比べて生存率が2倍に上昇した

ということがわかりました。
標準的な心肺蘇生と、胸骨圧迫単独の心肺蘇生とを比べると、標準的な心肺蘇生の方が統計学的に検討して生存率を改善するということではありましたので、人工呼吸の必要性が否定されたわけではありませんので注意が必要ですが、胸骨圧迫単独であっても心肺蘇生をしない場合と比較するとはるかに生存率を改善できていることがわかります。しかも、標準的な心肺蘇生に近いレベルで生存率を改善できるのです。

「人工呼吸はやりたくないな・・・」という理由で心肺蘇生自体を躊躇ってしまっては、救うことができる命が救えない可能性があります。人工呼吸が出来なくとも、絶え間ない心臓マッサージを行うことが大切です。
医師として思うことは、バイスタンダーによる心肺蘇生のハードルを下げることが大切だということです。今回のデータからも分かるように、心臓マッサージ単独かそうでないかよりも、バイスタンダーによる心肺蘇生が行われたかどうかが最も大事なのです。「人工呼吸はどちらでもよい」とすることでよりシンプルになり、より多くの目撃者がバイスタンダーとして心肺蘇生を行うことができればいいなと思います。

ということで、「市民による心肺蘇生は心臓マッサージのみでよいか?」に対しては「人工呼吸するしないよりも、心肺蘇生をするかどうかが圧倒的に大事」ということになるでしょう。なので皆さん、万が一のことがあった場合は、勇気を出して、心臓マッサージだけでも良いからバイスタンダーとなって心肺蘇生をしましょう!

Circulation. 2019 Apr 1.